バールディスティニー







惑星エアデール。
水に恵まれ、気温に恵まれ、『闘(トウ)』の気に恵まれた星。
大陸は西と東に別れ、主人公達の住む大陸は西の『アルトル』。急激に進んだ文明と自然の破滅により、黒き大気に覆いつつまれていた。
その黒き大気は光をも遮断してしまい、西の大地は電気街と化していた。
その黒い大気を『ブラッツ』と、西の人間は言う。
そして、そのブラッツの環境が生んだ生態兵器『バール』は、各地に散乱していた。

楽兎(ラクト)「…リリ」
屋根裏を足音無しで進む『両国 楽兎(リョウゴク ラクト)』と『リリ』。
楽兎は金網の下の、黒い髪をし黒い目に赤い瞳をした黒ずくめの男を見つめ、決意を固める。
楽兎の恋人は、重い病に侵されていた。その手術代を出すにはどうしても、指名手配の首を取るしかなかった。

クロ「ふむ。今日も『バール』狩りか。何故あの方は政府、あのサナトに手を貸すのか…。全く理解できませんなぁ」

楽兎「如意刀!!」
この世界には、『闘(トウ)』と言われる能力と、『ウェポン』と呼ばれる兵器が存在する。人々はそれで戦い、食う。
ウェポンの真価を発動するには戦が必要になる。
闘力(トウリョク)も色々な種類があり、様々な使い道があるのだ。
クロ「シルヴァー・エクセレント!!」
クロの『銀色の糸』が天井を切り裂く。
リリ「きゃ!!」
天井から落下するリリ。
ガシャアァン
クロ「ふむ、鼠が二人、いや、ニ匹。最近我が『デッドストラクチャー』組織に関連する建物を奇襲する子供が存在する、と聞いたが……」
楽兎「テメェ!ぶっ殺す!!」
クロ「無駄だ」
クロが腕を二回降ると、楽兎のウェポン『氷王剣』に銀の糸が渦巻く。
クンッ、と引っ張るクロ。
しかし、クロの思ったようにはならなかった。
クロ「ふむ、唯のウェポンではないらしい。切断等たやすいと思ったが、ね。その君の闘力『鈴(リン)』の無防備さ、そして、レヴェルの低さといい」
楽兎「引けないなら」
クロ「やってみるがいい。まだ右手の糸があるぞ!」
クロの腕が二回しなる。
リリ「ヴァルキリー・ステイン!!」
金髪の女性リリが右手を上にかざすと、神々しい光が辺りに覆われた。
クロ「…ッ」
光は段々消えてゆく。
そして、楽兎やリリの姿も消えた。
転移移動能力。これも『ウェポン』の力である。
クロ「暗殺失敗。ふむ。まあ、今のは仕様が無いではないか」

―月の館―
楽兎「何でだ!何で闘を発動した!リリ!」
リリ「だ、だって…。絶対殺されると思ったからッ!!」
楽兎「何だと…?」
柏木(カシワギ)「ぐはははっ!!また首取失敗か。おいおい頑張れよ楽兎!!」
楽兎「柏木……ッ」
不知火(シラヌイ)「大丈夫です。楽兎君。麗那(レイナ)さんはまだ落ち着いてます」
楽兎「あと何ヶ月持つ!?」
不知火「そんな事…僕が知っているとでも!?」
貞弘(サダヒロ)「楽兎、耳貸せや」
と言い、貞弘は楽兎にこっそりと教える。
余命――2ヶ月。
貞弘「で、よ。こうなったら俺達も力貸すぜ。バールを殺すのは…、無理にしろ、下級A国指名手配位なら楽勝だろ?柏木さんも居る。」
いきなり柏木のテンションが上がったのか、落ち着きが無くなってきた。
貞弘「最近隣の5番街で暴れ中の『トレノ一味』。奴らを捕まえようぜ」
楽兎「…わかった。明日、でいいか?」
貞弘「…あと、麗那にはリリが付いていた方がいい。行くのは俺、柏木さん、不知火、お前と…」
ピーッ
暗証番号が鳴り、ドアが開く。
壬空(ミソラ)「何やってんだよ?」
貞弘「壬空さんだ。後戻りは利かねぇ、陣形『クロスランス』。わかったか」
楽兎「わーったよ。…22時か。俺はもう寝るぜ」

不知火「楽兎君」
楽兎「あァ!?俺はもう寝んだよ!!」
不知火「君は、まだまだ弱い。そこら辺は知っておいて下さい」
カチャ…
楽兎「…チッ」

〜こちら5番街〜、〜こちら5番街でございます。〜
楽兎「お前等知ってんのか、トレノのアジトをよ」
不知火「僕の情報網をなめないで下さい。場所に関しては既に柏木さんと壬空さんに伝えてあります!!遅れを取らないように!!」

柏木「ここだな。見えるか、壬空」
柏木が言うと、壬空はスコープを取り出す。
壬空「バリバリ見える。暗証番号は…」
カタ、カタカタカタカタ
ヴィィ…ン
見えない扉が姿を現した。
柏木「俺に続け!!」
雑魚A「な、何だ貴様等!!」
壬空「如意刀!!」
蒼い刀が伸び、辺りを一閃する。
ズバババババッ
壬空「ひゃっほう♪気持ちいい〜!!」
どんどん先へ進む楽兎達。が、しかし待ち受ける一人の女が居た。
テルト「トレノの元には行かせないわ。行け!精鋭達よ!!」
壬空「如意刀!!」
雑魚B「そんな伸びるだけのウェポンが我々に通用すると思ったか!!」
ズギャギャギャギャ
辺りの精鋭達が途端に見えない『何か』に喰われてゆく
テルト「な、何?何が起きているの!?」
壬空「蒼龍剣『如意刀』はオトリ。朱雀剣『朧』。見えない龍を捕まえる事ができるかしら?!」
雑魚B「くっ…」
貞弘「…死斑刀。『縄張り』!!」
雑魚B「…何だこの臭いは!!」
雑魚C「ぎゃあああーーーッ!!」
テルト「な…ッ」
不知火「飛針刀…」
柏木「止まったぞ。やれ」
不知火「『刃の雨』!!」
ドガガガガガッ!!
刃の雨がテルトに当たる――
柏木「全掃」
楽兎「(チッ、俺は足手まといって事か!)」
不知火「テルト。こいつも指名手配ですね」
柏木「…次はトレノだ。ゆくぞ!!」
エレベーターに乗り、最上階6階に着く。
柏木が刀を構え、何かをぶつぶつと言い出した。
柏木「『デビルチャクラム』!!」
柏木の目の前に三つの巨大なリングが現れ、次第に高速回転してゆく。
ドヒュッ…
ズギャギャギャギャ!!
そのリングは壁や床を破壊しながら奥へと激しく突き進む。
そのリングはやがて一人の男の目の前で回転しながら空中浮遊する。
トレノ「な、何なんだこれはぁッ!!」
やがて三つのリングがトレノの体の周りに入り、超高速回転してゆく。
柏木「そのチャクラムに触れると、削れるぞ?そういう仕組みになってるんだ」
トレノが目の前のリングに指を近づけると――
ジャリッ!!
トレノ「ぎ、ぎぃぃやぁああーーーッ!!俺のッ!俺の指がぁーー!!」
柏木「ふん、一つで充分だったかのー?」
不知火「やれやれ、どっちが悪役かわかりませんね」
柏木「不知火!とくと覚えておけ。このアルトルというドームに『正義』と『悪』等存在せんのだ…!!」
楽兎「こりゃ、昨日やった奴より弱ぇな」
柏木「ほざけ!俺が強いんだ…。はっはっはっはっはっ!!」

警察「これが、賞金です。トレノ一味は5番街ではとんだ疫病でした。助かりました」
柏木「ふん、そう思うのならば貴様達警察が動けば良かったのだ。賞金は頂いていくぞ!!」
警察「そ、そうですよね…。そうなんです、よね…。しかし…、すいませんでした」

楽兎「何ぼだった?」
柏木「これで合計480,000カロだ。手術代にはあと20,000カロ足りんな」
貞弘「ようは小物をあと一人捕まえればいいって訳ですか」
不知火「…、ちょっと今日は活躍できませんでしたね、貞弘」
貞弘「…お前…、こんな奴の為にまた一肌脱ぐつもりか?」
不知火「いけませんか?」
貞弘「チッ」

壬空「フフッ、あいつらいっつもああやって手伝ってくれるんだから!感謝しろよ?我が弟よ♪」
楽兎「そう…だな」







4番街 6:30 ―月の館―
リリ「御飯ですよ〜!!」
柏木「ほう、これはまたまずそうな肉じゃがだな。何ともコメントが付け難い」
リリ「ああ、じゃあ鋼のは抜き。で、まだ帰ってこないの?不知火とサダは」
楽兎「どーせまた自分等より強い首を狩りに行ったんだろ」
(リリン…)
柏木「来るぞ!!」
楽兎「んだと!?」
柏木「…。誰か体に異変を感じる奴はいないか?今光速と言っていい程の速さでこのアジトの何かを『変えられた』。『鈴』が速テンポで2回鳴ったからだ。間違いない」
リリ「体に?いや」
楽兎「それより飯食おうぜ、うわっマズそうな飯だ」
リリ「とかなんとか言って食べるんでしょ?」
楽兎「たりめえ」
柏木「…闘の軌跡はくっきりと残っているな。『滅(メツ)』は使えない性質か」
楽兎「こんなモン正直麗那に食わしたくねえよ」
柏木が闘の跡を辿って金庫を開ける
柏木「楽兎!!」
楽兎「あ?」
柏木「すぐ仕度をせい。追うぞ。金を盗んだ人間を!!」
楽兎「…盗まれただと!?」
柏木「先に行ってるぞ!」
楽兎はよく状況を掴めないまま、金庫を見る。
楽兎「…盗まれてやがる!!闘の軌跡とか言ってたな…、柏木…」
リリ「こんな時には『見(ケン)』だよ!!先行ってるね!!」
楽兎「チッ、どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!」

同日6:59
―7番街―
ラータ「はぁ…、はぁ…。このお金でお母さんも助かるぞ…!!」
最南東に属する7番街。気温は尋常ではない。
ルンド「何やってんだい、お嬢ちゃん?」
ビナーレ「やめなよ兄貴、こんな小汚いガキを相手にすんのは!!」
ラータ「!!その紅装束は…!『紅闘士団(クレナイトウシダン)』…!?ハッ…、もう、疲れて『闘』も使えないや…」
パタン
ルンド「…、この盗んだ紅装束も便利やら不便なのやらわからんブツだな」
ビナーレ「着るだけで闘力が湧き出てくるんだもん♪損は無い無い!!」
ルンド「で、この倒れた女をどうするか、だな。結構やつれてるぞ。日光が存在しないとはいえ、この暑さだ。放っておいたら、死ぬ」
ビナーレ「さてはて?優しいお兄さんはこの後どうするのでしょう?」
ルンド「とりあえず安全な5番街まで運んでやるか」
少女を背負う盗賊兄弟の兄、ルンド
ラータ「やめ…て。5番街は…、やめ…」
ルンド「なんでだよ?」
ラータ「あたし…、4番街からお金盗んで逃げてきたの…。だから…、戻るのだけ…は…」
ルンド「お前、滅は使えないのか?」
白目を向き、今にも気絶しそうなラータ。
ラータ「使…え…ない。」
ルンド「…、どうする?ウェポンをここに捨てて…」
ラータ「ダメ」
ルンド「困ったねぇ。右周りできないとなると、デッドストラクチャーやリライヴクロスが存在する左側に行く事になるんだよなあ…」
ビナーレ「8番街は駄目なの?」
ルンド「暑さはそんなに変わらん」
ビナーレ「9番街は?」
ルンド「デッドストラクチャー本拠地のお隣りさんだ。危険だぜ」
ビナーレ「となると、」
ルンド「と、まあ滅状態なら5番街でもばれやしねえ。俺の闘力も合わせれば万事オーケーだ。その代わり、お嬢ちゃんには滅状態になってもらう為気を失ってもらうがな」
ビナーレ「わかってんのかねぇ?その子、『バール』だよ?」
ルンド「知ってらあ。だが、こいつに罪は無いんだ。『怨(オン)』が感じられないだろうが」
ラータ「…」
ルンド「お嬢ちゃん。一眠りする前に一つ聞いていいか?」
一搾りの声を懸命に吐くラータ。
ラータ「はい」
ルンド「何日前に窃盗を行った?」
ラータ「…約、30分前…」
バキ
ルンドがラータの首ねっこを強打し、気絶させる。
ビナーレ「やっぱり…、バールだよコイツ。人並み外れた身体能力と、人並み外れた闘力。R13トレインより速く動くなんて、人間にはできない」
ルンド「こいつは何も罪は侵しちゃいねえ。それよりビナーレ。能力はまだ続くか?」
ビナーレ「インフィニティコマンダー?それとも、ビーストコマンダー」
ルンド「余裕そうだな。じゃあ、とびっきり移動速度の速いバールを召喚しろ」
ビナーレ「無理っす。バールクラスとなると言う事を聞いてくれません!!」
ルンド「じゃあ動物でも魔獣でもいいから出しやがれよ。互拓はいいからよ」
ビナーレ「ほいほい。…いでよ!!」
巨大な魔鳥が姿を現す。
ルンド「…これは制御効くのか?」
ビナーレ「それ互拓っすよ」
ルンド「わーったよ。しっかり捕まってろよ、ラータ」

5番街 同日10:40
ルンド「さて…と。ビナーレ、気温能力消してもいいぞ。ただし滅状態は忘れんな」
ビナーレ「疲れたぁ〜」
ルンド「ま、文句言うな。…ここら辺にゃ空き地は無ぇみてぇだな。空中に『建てる』か」
少し笑うルンド。
ルンド「インシュレーションメイク」
ルンドが言葉を放ったその時、空中にハウスが出来る。
ビナーレ「今度は家作ったのね…、かなり、消耗したでしょ?」
ルンド「まあな、さて、早い所俺達もあそこに入るぜ。あのハウスは強制『滅』状態だから安心だ」

インシュレーションハウスの中は、水、ガス、電気、家庭製品も殆ど揃っていた。
だが、それ同様に闘力を消耗するルンド。
平然としていられる訳もなく、金髪の男ルンドはベッドに寝込む。
ビナーレ「だから絶縁服位にしとけばよかったのに、アホ兄」
と、言いながらビナーレも寝込む。

6番街 同日23:30
車で突き走る柏木と、ウェポン『ブーストバースト』で空を飛ぶ壬空。
柏木「くそっ…、列車無しで何処まで行きおった!?」
壬空「だけど、闘の軌跡は濃く残ってるよ。でも、もしかしたら…、この軌跡の荒さは…」
楽兎「くそ、暑ぃ…」
柏木「何だって言うんだ!!」
壬空「『バール』の可能性が高い。同時刻にアジトから出たんだ、こんなに差を付けられるのは『バール』以外の何者でもないよ」
リリ「万一、そのバールと当たってお金を取り返せる可能性はあるの!?」
柏木「黙ってろォ!!」
壬空「もうちょっとは飛ばせないのかい?その車は。なんなら、柏木達がR13トレインで行動してあたしが軌跡を辿ろうか?」
楽兎「わかってんのか姉貴、次はあの灼熱地獄『7番街』だぞ?」
壬空「さあね、行った事も無いから何とも。今の気温でも今にも気絶しそうだし」
リリ「もういいよ!!そこまでして追う必要無いじゃん!また一からやり直せばいいじゃん!」
楽兎「あと2週間で何カロ貯めれると思ってんだてめーは」
リリ「そんなの…、そんなの…」
楽兎「帰りたきゃ一人で帰れよ、へっ、水代わりにガソリンや尿飲む気力が無けりゃ生き残れないぜ」
柏木「リリには最後まで居てもらわんと、万一の時に死んでしまうからのう、頼むぞ」
リリ「そんな…ッ!!」
プルールルール♪
リリの携帯が鳴る。
リリ「なに?メール…?」

————
この番号に電話をかけてもらおう。
不知火戒と
千里貞弘の身柄は預かった。
只今拷問中☆
***-****-****
組織デッドストラクチャー
『死四駒』タナトス
————







リリ「は、鋼(ハガネ)…。これ…」
柏木「わしは今運転だけで精一杯だ。楽兎に見せてやれ」
楽兎「なになに、…あァ!?あの馬鹿二人捕まりやがったぞ!!」
壬空「誰から?」
楽兎「タナトス…」
柏木「!!」
ギギ、ギギィ!!
突然車を止める柏木。
楽兎とリリが反動で激しく前頭部を打つ。
柏木「壬空。タナトスとは、ブラストのあの奴か」
壬空「…携帯見せて」
リリが頭をクラクラさせながらも壬空にメールを見せる。
壬空「10番街にワープ!リリ、早く!!」
リリ「で、でも…、電話しろって書いてあるよ?」
壬空「特殊ウイルスを使った罠に決まっている!!そんな事より早くあたし達を10番街に送るんだ、リリ!!」

デッドストラクチャー本拠地
プシュ
不知火「ぐっ…」
ズチュ
不知火「…ああッ!!」
プシュ
不知火「や、ああ!!」
クロ「ふむ、なかなか色っぽい声を出すじゃないか?」
タナトス「ケケケ、こいつ、女なんじゃない?ぜってえ付いてねえよ。蹴ってみようかあ?」
クロ「左様で。…どうぞ」
両腕を鎖で繋がれた不知火の股間を、鉄板入りの靴で蹴る。
バキッ!!
不知火「ぐ、ぐあああああああああああああ!!」
タナトス「男?勿体ねぇなあ不知火戒。そんな可愛い面して男?改造してやってもいいぞ?ほら、何とか言えや?」
不知火「…さ…ツッ…!貞弘はどうした…」
タナトス「ああ、四死駒の俺様が直々に拷問してやったよ。指を変形させてな、こう」
と、言うと、タナトスの指はおぞましい形に変化した。
背筋が凍る不知火。この時、何かを予感した。
不知火「さ、貞弘ーーーーッ!!無事か!!無事か!!!!」
タナトスの指が少しづつ不知火の体内に入ってゆく。
不知火「ああああああああああああ!!!!」
クロ「同性愛というやつですかね?全く、気色の悪い…」
(リン…)
タナトスが膨大な『闘力』に気付く。
タナトス「不知火よお、『俺は』これ位で勘弁してやるよ。最後に教えてやろうか?ウン?」
不知火「…なに…」
タナトス「貴様等『ア・レイド』は、俺達の目に止まっている。こういう立場になってもしょうがないんだぜ。…あばよ」
シュン…
不知火「(消えた…だと!?)黒ずくめの男。…貴様に…聞きたい事があるッ」
クロ「何だね?」
不知火「ア・レイドとは何だ」
ドオオオオッ!!
白き炎が瞬時に広がり、一人の男が現れる。見方なのか、敵なのかは不知火にはわからなかった。
不知火「なッ…!!」
クロ「キ、キース様ッ!!」
キース「よう。…何してんだい?随分『処理係』がレディーを痛め付けているようだが、俺はこんな女は知らん」
クロ「キース様ッ!こ、こいつはアレイドの肩われでして!!」
キース「ふん。で、なんだ、拷問か。レディーをこんな目に?」
クロ「ち、違います!タナトス様が…!」
突然空中に浮くキース。
キース「黙れ処理係」
バキッ
クロ「ゲハッ…!!」
不知火「(な、何だこの男は…!空中に飛び、いや、浮き—、軌道を変えた!?そんな馬鹿な…!)」
キース「レディー。お前の仲間はな、俺達の仲間の命を奪ったんだぜ」
不知火「そ、そんな事は私は知らない!!そんな事より、くる、燃え移る!!白い炎が!!」
キース「無事だ。『白い方は』あまり熱くない。…どうやら捕まったのは二人だけのようだな。どちらも、真実を知らない純粋な目だ」
不知火「…ッ」
安堵で気を失う不知火。
キース「さて、と。レディーともう片方は解放してやるか。コイツ等を痛ぶっても、何も得る物は無い。『ナインルーズ』、奴ももう還ってこない。タナトスには悪いが、な」

―デッドストラクチャー本拠地・入口―
神々しい光が辺りを包む。
楽兎「ここか。随分と暗い場所だぜ、明かりはねぇのか?」
タナトス「イグジステンストルネード!!」
バキギギ!!
瞬間的にその場に現れ、上下逆さの体で両足のキックを浴びせる。
楽兎達は真に喰らい、動けなくなる。それ程タナトスの闘力と体術は優れていた。
だが、
壬空「ここに現れるという事、読んでいたのね」
タナトス「ケケ、偶然だ。まさか転移の術を以っていたとは思わなかったが…、裏目に出たな?両国壬空(リョウゴク ミソラ)よォ!!てめぇ、あのナインルーズを殺した『木道蘭花(モクドウ ランカ)』の仲間だろうがよ。ケッ、ケケ。相棒をよくも殺ってくれたなァ?」
壬空「恨みを持っているのはそちらさんだけじゃないさ。あんたらは、蘭花を殺したじゃないか」
タナトス「ぐちぐちと抜かしながら、貴様も読んでいたんだろう?俺様が奇襲する事を読み、後ろに飛んだ!仲間は見捨ててなァ!なあ!?」
壬空は空中に飛びながら見下して挑発する。
壬空「何一人で必死になってんの?」
タナトス「てめェェーーッ!!」
ギャリリリリリリリリリ
タナトスの目の前を禍々しく飛び回るリング。
タナトス「これは…、クク、覚えてるぞ。デビルチャクラム。柏木か」
柏木「幾ら貴様とて、2対1では勝てまい。シャクだがな」
タナトス「はは。降参だ」
そう言い、両手を上げるタナトス
柏木「フン!雑魚が――」
壬空「馬鹿!罠だ!!!」
ドゥン
ドドゴ…!!
柏木「グボ…ががががが」
タナトスの両腕が体から発射され、柏木の体をえぐる。
タナトス「雑魚はどっちだ。でかいだけの脳無しめ。‥ああ、そうだ。そのロケットパンチは所謂『闘力』でな、一度敵を殴ったら貫通するまで離れないような性質にしてある。…腹部と胸。貴様は死ぬよ。ざまあみろ」
壬空「この…ッ!!朱雀剣『朧』!!」
ズガガガガガガガ
ドゴォ…ン!!
壁に叩き付けられるタナトス。
タナトス「…クククク!!貴様も奇襲好きだね、壬空。さあ、喰い潰すがいい。俺様はちょっとやそっと喰われた位では死ねんがな!!ハハハハハハッ!」
バグチュ
タナトス「また、殺し合おう――」
胴体を喰われるタナトス。
壬空「柏木!!」
柏木「壬空ァ!!」
柏木の元気を偽った声に、驚く壬空。
壬空「何よ!大丈夫なら……」
柏木「わしの遺骨は…!!日と海が見える丘に埋めてくれると約束するか!!」
壬空「ま、まさか」
彼の体に込めた闘力は限界を超えていた。
ドシュ…
柏木の体を貫通するタナトスの二つの腕。
壬空「そん…な…!!そんな無理を託さないでよ!そんな無理言って死なないでよ!!馬鹿!馬鹿!!」

―第5番街―
ルンド「…くぁ…大分寝たな…」
ビナーレの眠る部屋に入るルンド。
ルンド「あちゃ、こいつまだ寝てやがる…。無理させ過ぎたな…」
ラータが眠る部屋へ入るルンド。
そこでルンドが目にしたものは――
ルンド「—逃げられちまったぜ、おいおい。」
置き手紙を見つけるルンド。
カサッ
ルンド「…はは、まあ、幸せに暮らせよ」
その手紙に書いてあった言葉は、感謝と一喝であった。
ルンド「ふん…おい!起きろビナーレ!!」
ビナーレ「…な、なんスかー?」
ルンド「第7番街に戻るぜ。『紅闘士団』と合流しなければならねえ」
ビナーレ「もう…?いや、やっと行くんだね。このドームの中心地、あの『月の塔』に」

―半日後―
氷女人(ヒョウメジン)「酷い有様ですね…、これは」
タナトス「あア!?何見て言ってやがる!!」
氷女人「私が13番街の北極の地に向かっていた内に、一体何が?」
タナトス「来たのさ。ア・レイドがな!」
氷女人「それで、みすみす逃がしたと。それでそんな上半身のみにされた貴方は何をぬくぬくと食事を?」
タナトス「上半身のみっていうのも楽だぜ、体重が半分になるんだからな!!ケケケ!!」
氷女人「上半身のみで人並み以上の生活ができるのは貴方位のものです。……で……、スーパーウェポンは?」
タナトス「あ…。悪ぃ。そいつの事すっかり忘れてたわ」
氷女人「全く…。それで、貴方なりの成果は得られたのですか?」
タナトス「柏木殺した」
氷女人「それで…?」
タナトス「後はキースが全員逃がしちまったよ。レディーがなんとか、ってな」
氷女人「役立たずですね…彼も。まあいいでしょう。次は必ずあちらから来ます。その理由はわかりますね?人間の貴方には」
タナトス「ケッ、何とはなしにな。で、『バール』の貴様にはわからない訳だ!!全く、面白い素体だ。『インフォスフィア』が創ったブラッツの賜物はな!!」







7番街
ルンド「チッ、よりによって『リライブクロス』までいやがるぜ」
ルンド達は外から『セト遺跡の中』を見ていた。セト遺跡には絶縁服とカメラを設置したモンスターを向かわせ、ルンド達はそのモニターを見ている。
ビナーレ「で、でも。リライブクロスが居るって事は…」
ルンド「…インフォスフィア関連だろうな。『リライブクロス』、ヤツラにはこの大陸の中心部『月への階段』に入る術がある。そして、このドームの外に出て…、さて、どうだろうな」

―セト遺跡―
『紅闘士団』と『リライブクロス』による『神殺し』の対談が行われていた。
エーテル「デッドストラクチャーの連中は、何で呼ばなかったんだ?奴等は癖こそあるけど強いぜ。まあ、俺達紅闘士団の比じゃないけど」
ポナーク「確かに、エーテル様のおっしゃる通りであります。彼等はまあ強い。君達『リライブクロス』よりは使える逸材だと思うが」
ポナークの頭を殴るエーテル
エーテル「お前は黙ってろ、ちょっと場違いだぞ」
リライブクロス側から笑い声が零れる。
そんな中、ポナークの挑発に乗り怒りに震える男が居た。
リライブクロス副団長のグランである。
グラン「これは親善会議ではないのか…?」
ポナーク「親善?貴様等とか。…つまらない冗談だ。ふん、簡潔に言うとね、貴様等のその特殊な『月への階段』に繋がる術をせいぜい利用させてもらうだけなんだ。私達はな」
紅闘士団団長の『シデン』が立ち上がり、ポナークへ鉄拳を入れる。
バキッ
ポナーク「は…ッ!!」
シデン「口が過ぎるぜ、お前少し黙っとけ」
ポナーク「す、すいませんでしたッ!!相手は敵なので…。許して下さい」
紅闘士団のクジンが指を曲げ、腕を上げる。
クジン「これは遊びではないのだからな」
紅闘士団とリライブクロス一同の周りに大きな鍵の集合が現れる。
ポナーク「お許し下さい…!!」
グラン「これはもしや貴様の今まで殺してきた人間の数に対応しているのか?」
クジン「私がそんなにお人好しに見えるか?これは全員私の能力の犠牲になった、仲間だ」
グランの顔が青冷めてゆく。
沈黙が少し続き、リライブクロス団長金月刹那(カナヅキ セツナ)は答えた。
刹那「デッドストラクチャー。彼等を呼ばなかったのは、できるだけ少数精鋭にする為です」
エーテル「そんな事を言っている場合か?神は強い」
刹那「他にも検討を断った勢力は多々あります。『世界政府』や『ア・レイド』等」
シデンは頷く。そして一言『リライブクロス』に頼んだ。
シデン「率直に言う。俺達を、『月への階段』に転移してくれないか。お前達はその術を持っている」
刹那「貴方の『魔法』とやらは中央部には通用しないのですか?」
シデンは首を降る。
刹那「正直、貴方達に『神』を殺せる器量があるとは思えません。こういう事が言えるのも、私は一度神と対談した事があるからです。確かに彼を殺せば『ブラッツ』は消えるでしょう。しかし、万一でも無駄に神を怒らせ、この地に異変が起きるような事がある可能性があるのならば。貴方達を『月への階段』に送るような事は避けたい」
紅闘士団のナギがその言葉に答える。
ナギ「つまり、私達を試したい。という事ですか?ふん、この私が相手になりましょう」
「はいはいストップストーップ」
何者かが仲介に入る。
シデン「君は…、ルンド!!」
グラン「何者!!」
ルンド「えーっと、元『紅闘士団』のルンドと申します。で、これが妹のビナーレ」
グラン「貴様、何処から何処まで聴いていた!」
ルンド「初めからっす。…久しぶりだなシデン」
ポナーク「この…、裏切り者が!よくもぬけぬけとッ!!」
ルンド「ところでシデン。約束のブツを渡してもらおうかい」
シデン「あ、ああ。皆すまない、すぐに終わる」
と、シデンが腕から『宝珠』を取り出す。
シデン「久しぶりだね。…君も行くつもりなのか。桃幻郷へ」
ルンド「ま、物好きなんでね」
ビナーレ「あ、あのッ」
シデン「何だい?ビナーレちゃん」
ビナーレ「あ、ありがとうございました!団長!」
シデンが笑みをこぼす。
シデン「なごんだよ」
刹那「桃幻郷とは、何でしょうか?」
シデン「…ああ、聞かれてたか。桃幻郷とは……、精霊が住む世界さ」
グラン「フン、何を馬鹿けた事を!!」
シデン「と、それは俺達がそう呼んでいるだけで、実際は魔法都市みたいなようなものかな。(この時代とははるか離れた古代都市…なんて事は流石に言えないけど。)」
刹那「…それで、取引しようという訳ですか」
シデン「まあ、そういう事だ。…悪いがルンド、桃幻郷はまた今度にしてくれ。」
ルンド「…まあ、最後まで事は見させてもらうぜ」
グラン「その魔法都市とやらは、何番街に存在するのだ?」
シデン「それは言えない。が、…そこに居る人々を納得させる事ができたならば、魔法すら覚える事も不可能ではないよ」
グラン「そんな事を信じろというのか?」
シデン「俺の魔法が、それを物語っているだろ?」
刹那「…わかりました。その宝珠と、『月への階段』の権限。交換しましょう」
グラン「しかし…」
刹那「確かに彼等はウェポン無しで何もかも熟す集団です。信じられない道理ではありません」
シデン「ではグラン。この宝珠を受け取ってくれ。この宝珠を7番街再南端『ファルカッセル城』の祭壇の凹みにはめ込んでくれ。それだけで行ける、簡単だろう?」
グラン「…刹那様」
刹那「わかりました。貴方達を転送しましょう」
シデン「ルンド」
ルンドは何かを受け取る。
ルンド「(これが本物、という訳かい。そしてこの宝珠をかざす本物の祭壇は13番街にある…。ふん。)」
グラン「シデン。我々『リライブクロス』のNo.10までをここに転送しろ。でなければ『月への階段』への儀式が出来んのだ」
シデン「わかった」
ルンド「じゃ、俺達はこれで引きますわ」
ビナーレ「え!?宝珠は?」

―空への螺旋階段―
次々と現れる『紅闘士団』達。
エーテル「あれが…光か!!」
シデン「ふん、僕はね、『神』なんていうのは元々興味が無いんだよ。既に古代都市にも行った。となると」
クジン「東の大陸、か」
シデン「そうさ。さあ、こんな階段等昇る必要は無い!!飛翔するぞ!!」
ドウッ!!
『光』に向かい飛び向かう5人の紅







リライブクロスの少数精鋭が第7番街『ファルカッセル城』に向かった同刻
10番街 ―デッドストラクチャー内部―
壬空「ハァ…ッ!ハァ…!!」
蘭花「…」
壬空「何故何も喋らない!!何故あたしの邪魔をする!何故死んだアンタが生きている!?」
蘭化「…」
ドウ…ン、ドウン!
蘭花の放つ『ロケットランチャー』が壬空を襲う!
壬空「仲間だろ!?お前も、柏木も、刹那も!?」
ドゴォ…ン
タナトス「フン、馬鹿め。蘭花…、奴の骸をそう簡単に逃がすと思ったか、あの肩割れめ。既に奴の体はメカだ。私がいじりたいだけいじったが、どうにも気に入る事の出来なかった『駄作』。…ふん、そろそろ私と下半身も完全に合体する頃か。馬鹿な女だ。『死四駒』が『三人』だけだと思ったか…?大甘だね、ケケケ。」
キース「…」
キースは、タナトスの部屋の前に少し立ち止まった後すぐに立ち去った。

壬空「フランケンにされても、ロボットでも何でも!あたしはアンタを殺す事なんてできないんだよ!!」
蘭花『ケケケケ。単独行動とは無謀だな。両国壬空よ!』
壬空「その声は、タナトスか!!」
蘭花『クク、御名答、と言った所か。フン、仲間を殺す事はできまい…?この「出来損無い」にも多少の感情は残しておいてある。つまりこの闘いは?そう、楽には終わら――』
ブチッ
肉眼には見えない程の速さで誰かが機械化された蘭花のボイスアンテナを潰す。
キース「…あら?アンテナ壊れちまったが大丈夫なのかい?」
蘭花「…」
壬空「貴様…!死四駒のキースか!?…如意刀!!」
キース「フン」
右手で蒼龍剣を受け止める。
ボワッ…!!
キースの両手が黒色に燃え上がる。
キース「レディ。俺はいつでもレディーのミ・カ・タ☆なんだぜ」
壬空「クッ!!威嚇しておいてどこが味方だ!!」
キース「ま…そう見えるだろうね。しかし君も俺をそのウェポンで攻撃した。違うか?レディー。こうするしか、なかったんだ」
壬空「当たり前だ!貴様は敵――」
キース「スネークシェーパー」
ボゥッ…!!
一瞬の事だった。炎が蛇のようにうねり、メカ蘭花に巻き付き、焼殺した。
壬空「…!!」
キース「と、いう事さ♪」
ヴォン
突然現れる二つの影。
タナトス「イグジステンストルネード」
バギャギャギャギャ
キース「くっ…!!」
氷女人「キース」
キース「…何すか姐さん」
氷女人「あたしもレディー、よね?」
キース「…あんたは化物だわ。ワリィな」
その次の瞬間――
タナトス『グギャギャギャギャギャギャッ!!』
次々と『何か』に串刺しにされるタナトス。
タナトスの周りは巨大な『鏡』に囲まれ、鏡はみるみるうちに血色に染まっていく。
刹那「万華鏡。既に付き人である貴女の目では、彼は無限の朱い月にしか見えないでしょう――」
壬空「刹那!刹那~!!」
刹那に抱き付く壬空。
キース「(…迅い!!確か『リライブクロス』の団長だったか――)」
氷女人「…あらあら。タナトス、死んじゃいましたね」
嬉しそうな顔で塵と化したタナトスを見る氷女人。
刹那「貴様…、既に人外の値だな。バールか?」
氷女人「そうです。インフォスフィア様がお造りしになった、バールでございます」
刹那「知っているのですか。『神』の存在を」
氷女人「真上から奇襲攻撃かしら?キース」
氷女人の上空に浮くキース。
キース「アロー…シェイパー!!」
放射能のように白き炎が広がり、黒き炎の矢が雨のように降り注ぐ。
ドガガンドガガン
城内に燃え盛る黒き炎。地面の姿には、キースのウェポンで守られた壬空と刹那、そして……氷女人のウェポン『化固方陣(カコホウジン)』が燃えたまま浮いている。
キース「(化固方陣…、敵を正八面体の殻に封じ込めるウェポン。どのような攻撃でも破壊する事はできない。だが――それを応用しちまえば自分を封じ込めて守る事だって出来る。厄介なウェポンだぜ)」
壬空「もう、片付いたの!?」
キース「フン、レディー二人が俺の事心配してくれてるぜ。こりゃ、いい事あるかもな…」
化固方陣に隠れていた氷女人が、『闘』を解放しその姿を表す。
既に、人の形とは言えない氷女人。
キース「……全く、化け物もいい所だね、あんた。…だが、生憎俺の炎で燃やせねえものなんてありゃしねえの。白で焦らし、黒で焦がすのさ」
キースはある決断をする。
キース「スピア…」
氷女人「衝突ダ!!人間ヨ!!」
キース「スピアシェイパー!!」






キース「スピア…シェイパー!!」
氷女人「リフレクション」
氷女人の周りに、バリアーが張られる。
キース「!!…あれは…、『空への螺旋階段』を守る特殊バリアか…。へへ、『そういう事』かよ氷女人!!」
氷女人「結構勘が鋭いわね。そう。『空への螺旋階段』の特殊バリアーは私が造ったものなのさ。インフォスフィア様の為ならば。さあ、この特殊バリアーが貫けるか?化固方陣ですら破壊出来なかった貴様が、この特殊バリアーを破る事ができるか?否、できないな。さあ。来るがいい小僧!!」
キース「…やれやれだな。『スピア』でさえ相打ちで終わりそうなのによ。…ま、やってみようじゃねえか」
炎の槍が変化し、巨大化してゆく。
壬空「あ、あれは…」
キース「最大の闘力だぜ。『フェニックスシェイパー』」
ゴウ…、
刹那「…恐らく。このウェポンから外に出たら私達はすぐに焼死してしまうでしょう。全く、壬空から大至急の電話が来たから駆け付けてみれば…、とんだ災難でしたね。」
壬空「ごめんよ~…」
刹那「まあ、『私は』暇だからいいのですけどね。『紅闘士団』、彼等の事も今いち信用できませんでしたし」
グラ…
壬空達を封じたキースのウェポン『捕獲円』は、城の外へと脱出する。
キース「レディーの胸の中で死にたかったぜ。炎の中で死んでも嬉しくねえ。さあ、俺の炎がどれだけ燃えるか。…試してやろうじゃねぇか!!」
キースと黒い不死鳥が『氷女人』目掛けて飛ぶ。
ギギギギギギギ
キース「行けるぜ!」
バリッ、ドゴォォォ…ン

キースのウェポンが開き、壬空と刹那を解放する。
壬空「行ってみよう。十番街へ!!」

―10番街―
コオォォオオオ…
キースの『フェニックスシェーパー』により、デッドストラクチャー…、いや、10番街に巨大な穴ができていた。
恐らく、タナトスも、氷女人も、組織全体も、そしてキースさえ、死んでしまった。それ程酷い有様であった。
壬空「…、死四駒、と、デッドストラクチャーはもう消えたのかな?」
刹那「…間違いないですね。…そして、何かの衝動により…、『空への螺旋階段』の周りに禍々しく張られていたバリアーも消えています。と、なると…。もう私が『リライブクロス』に居る理由も無くなりますね…」
壬空「…、あの人はどうしたんだろう。白黒の人」
刹那「…恐らく……」
『キース、奴は死んだよ』
壬空「きゃ…!頭の中に言葉が浮かんでくる…!!」
刹那「これは、テレパシー?」
『我が名はタナトス。不死者だ。貴様等を守ったキースは、死んだ。ついでに氷女人もな』
壬空「や、やめてぇーッ!頭の中に入ってこないで!!」
「誰が、死んだって?」
壬空「し、白黒の人!」
キース「タナトス。てめえの核は今俺の手中にある」
『なんだと…!?』
キース「知ってる。これを破壊すればてめえは消える。ハートみたいなモンさ」
『や、やめろ!そ、そうだ。貴様にも「永遠の命」、くれてやるぞ?』
キース「うそっぱちじゃねぇか。こんなビー玉みたいな核一つでてめえの命が無くなるんだぜ。…じゃあな」
ボウッ
キース「…と。死四駒消滅って所か」
刹那「貴方…、生きていたのですか」
キース「まあな、大体女の為に味方裏切って死ぬなんていくら俺でも馬鹿過ぎるだろ?だから、生きたのさ。…ま、それより聞けよ」
刹那「はい」
キース「俺の名は、キースだ」
ステーン
壬空「そ、それだけぇ~??」
キース「ま、それは置いといてだな。今俺が『特殊バリアーを張った張本人』を殺した事によって、『空への螺旋階段』が解禁された。恐らく『紅闘士団』も『リライブクロス』も『世界政府』も動き出している。それ程俺達は太陽や月、海、空等というブラッツの『外の世界』を見ていないからな」
刹那「既に紅闘士団は東の大陸へ向かった筈です。リライブクロスも、古代都市という腑抜けた情報に夢中ですし」
キース「…まあ、そんなに早く動かねえ方がいいよ。何となく、そんな感じがするのさ」

―空への螺旋階段―
グリニー「サナト大統領。『空』に到達した時は、次は何をされる予定なのですか?」
サナト「う〜ん、そうだねぇ♪とりあえず、東の大陸とやらをじっくり観察しようじゃないか…」
グリニー「あわよくば」
サナト「クスッ、グリニー、君も焦らしが上手いねえ…♪」
グリニー「サナト大統領程ではありませぬ」
サナト「退け退け!民衆どもよ!!我の先を進む人間等要らぬ!やってしまえ!グリニー!!」
グリニー「ハッ。『スパイダーアーム』」
機械のような触手が何本か唸り、前方の人間達を弾き飛ばしてゆく。
サナト「さすが。あっぱれだね」
グリニー「勿体無いお言葉です」
ヴォォ…ン
サナト「!何だあれは!!」
『ヴィジョン』が現れ、次第に濃くなってゆく。そして、螺旋階段の中央。サナトの目の前に現れた男は――
インフォスフィア「ようこそ、人間ども。私の名は『インフォスフィア』。バールを司る神。時に人間。『空』に何の用かな?」
サナト「何者かね?君は」
インフォスフィア「忌み嫌われるブラッツ、そしてバールの創造主」
サナト「ふん、…どうだね?初めて『西の人間』を見た感想は?私は人間共の統領である」
インフォスフィア「ふむ。まず、理由を聞きたい。何故、東へ飛ぶ?」
サナト「ただ単に、空を拝みたいからさ」
インフォスフィア「ふむ。では、どのようにこの『螺旋階段』に入った?」
サナト「ああー、喋るの面倒臭くなってきた。グリニー。変わりに話してやりたまえ」
グリニー「ハッ。既にこの螺旋階段を遮るバリアーは消えています。我々は、黒き大気『ブラッツ』の下で日の光を見る事の無いまま過ごして来ました。古文によると、このブラッツの外には素晴らしい世界がある、と記されています。我々は、それを見てみたいのです」
インフォスフィア「その古文は間違いだろう。東の大陸を除けば、まあまあな見晴らしだろうが」
グリニー「その『まあまあな』暮らしが私達にはできていません。是非、通して頂きたい」
インフォスフィア「フン、自分達さえ良ければそれでいいのかね?ブラッツを消してもらおう、とは考えない訳かな?」
グリニー「サナト大統領」
サナト「ふん、弱肉強食だよこの世界は。強い者が光を浴び、弱き者は永遠とブラッツの下を這いずり廻る。そうだろう?」
インフォスフィア「では、醜き大統領とやら。貴様が本当に強者かどうか試してやろう。『シャドゥ・マーシュ』」
影の底無し沼がサナトとグリニーを襲う。
サナト「…ブハハ!私とて馬鹿ではない」
インフォスフィア「ほう、そのウェポンは…」
サナト「『業傘反(ギョウサンハン)』。私には『闘力』等というものは効かん。むしろ跳ね返すぞ!!ブハハハハ!!」
インフォスフィア「良かろう。ならば実際に東に飛び、己の愚かさを確認するが良い」
サナト「時に、神。私達世界政府には東への移動手段が無い。どうすれば良い?」
インフォスフィア「転送してやろう」
ドシュン
インフォスフィア「…フン、バリアが破れたという事は…死んでしまったか。氷女人」







壬空「キース君は今からどこに行くの?」
キース「部下の供養さ」
壬空「そっか……。良かったら一緒に向かっていいかな?」
キース「…いいぜ」
刹那「花を差し上げる事はできます。デッドストラクチャーの空洞へ向かいましょう」

11番街 ―街の外―
プルールルール♪
リリ「壬空さんと連絡が取れたよ!」
楽兎「ったく、デッドストラクチャーにはいなかったはずだぜ」
リリ「私達が気絶してる間に移動してたんだって」
貞弘「柏木さんはどうした?」
リリ「生きてるって」
貞弘「お~、さすが柏木さんだな!」
楽兎「柏木ならそりゃ無事だろ。あいつは無茶苦茶強いし」
不知火「……」
貞弘「フン、デッドストラクチャーは10番街だがここは11番街だしよ、10番街に移動するか?」
リリ「壬空さんが、暫く旅に出るから合流はいいって。それと、タナトスの部下を沢山捕らえて警察に付き出したから、麗那さんの手術代を電子マネーで送ったって」
楽兎「ほ、本当かよ……!」
リリ「暫く遊んで暮らせるだけのお金はあるって」
楽兎「よし……4番街に向かって麗那を病院に搬送するぞ」
不知火「リリさん」
リリ「?」
不知火「楽兎君には、もう少し積極的にならないと、麗那さんに奪われてしまいますよ」
リリ「私と楽兎って恋愛感情ないんだ。不知火君も世話ばっかりじゃなくって女の子に積極的にならないと彼女ができないよ♪」
煙が出る様に顔を赤らめる不知火

―デッドストラクチャー空洞―
壬空「大分歩いたわね」
キース「疲れたかい?」
壬空「いえいえ、まだ全然大丈夫だし!」
キース「危険はないぜ。危険があったらレディをここには連れてこねぇ」
刹那「……」
それは、敵味方もろども焼死させてしまったキースの自信と絶望でもあった
ザッ、ザッ
壬空「ふ~、疲れた」
刹那「……凄まじい『怨』を感じますね」
キース「ああ、俺達三人の闘力を感じ取っても『怨』を丸出しに出来る奴なんて、怖いもの知らず以外の何者でもないね」
刹那「キース様、好戦的な様ですが」
キース「こいつはバールだ」
キースの100倍は大きいバールの牽制で門が薙ぎ倒される
キース「でかい。デッドストラクチャーに有ったバール・ライブラリの中央に飾られてたホルマリン着けのヤツか。弱い奴はバール・ラボラトリで実験台になってるし、こいつは無傷の新品だな……」
刹那「私の刀で刺せますが、深さに限界がありますね。眼球など柔らかい部位なら攻撃は与えられそうです」
キース「こいつはウチの資料館でも代表的なバールだからトータルで氷女人以上に強いと思ったほうがいいぜ」
刹那「心得ました」
キース「壬空ちゃんは危ねぇから物陰で隠れてな。『滅』を忘れんなよ?」
壬空「きゃっ!」
キースが壬空を抱えて、壬空を物陰に隠す
壬空「……キース君……」
キース「俺の黒炎で丸呑みにしたら丸焦げにできるが時間はかかるぜ」
刹那「まず致命傷を与えましょう。私が先に攻めます」
門が薙ぎ倒され目の前に巨大な空洞と空が現れた
バールの眼球付近に瞬間移動をしたかの様に現れ構える刹那
ズギャギャギャギャ
バールが眼球から黒い血を噴出させて、大きな奇声をデッドストラクチャーの空洞にひしめかせる
キース「スピアシェイパーっと。2つ必要だな」
ワンテンポ置いてキースがバールの眼球に近付き、黒炎の槍を裂けた両目に投げ込む
刹那「どうやら、キース様が黒炎の槍を眼球の裂目に投入し続ければ勝ちの様ですね……」
キース「ちょろいっすわぁ」
バールから出る8つの突起から無数の眼球が開く
キース「……あら」
刹那「私が全部斬るので……」
刹那の背にテレポートするバールの突起
ドゴォ
刹那「……っハ……」
キース「くっ!これがウェポンって訳か!」
キースの背にテレポートするバールの突起
キース「避けるのは十八番なんでね!」
空中に浮き無規則に移動するキース
しかし、テレポートの位置そのものがキースの背中に追従している
キース「まじかよ、避けられねぇのか!?」
背中に黒炎の槍を構えるキース
ドゴッ
キース「がはっ!!!!」
黒炎の槍に焼かれる突起だが、突起の突きが速く、突起を防ぎきれなかったキース
物陰に隠れていた壬空が朱雀剣を上にかざす
壬空「朱雀剣『朧』!キース君と刹那を空に連れていって!」
朱雀剣から出る透明の竜が刹那とキースを捕まえ、空に上昇する
壬空「私も尻尾で捉えて」
尻尾で壬空を捕まえる朱雀剣『朧』
月の塔から漏れる光を中心に、ブラッツで覆われた暗闇の空を昇る竜。
壬空「……追ってこないわね」
無垢な顔で静かに気絶しているキースと刹那
壬空「この二人仲がいいわぁ。ねぇ朱雀剣『朧』、どこに行く?」

7番街―ファルカッセル城
グラン「これが桃源郷へ繋がる祭壇か」
マッドレイ「その様ですな。……しかし、何故刹那様は、この旅路を拒否なされたのか……」
グラン「他の勢力と協力する話があったのだそうだ。それに、私はこの旅路を刹那様には話していない」
マッドレイ「……何故その用な行為をなされたのですか?」
グラン「桃源郷が本当に在るのかが怪しいからだ。この様な高熱の地に出向き、もしも紅闘士団の話が嘘であれば、我々の旅路は無駄足になるだろう」
マッドレイ「もし、紅闘士団の言う事が本当で、桃源郷に移動した場合は、グラン様は魔法を習得なされるつもりだったのですか?」
グラン「副作用があるとしても、私が習得するつもりだ」
マッドレイ「……もし一人しか継承できないという条件があったとしてもですか?」
グラン「No.3である君に継承させても何ら困難はないだろうが……」
マッドレイ「……なるほど。しかし、いくら毒味の旅路でも、刹那様が居なければ、いざという場合に対応できないのでは……」
グラン「強大な敵も含めた旅路だ。私達が倒されれば、刹那様が危険を察知する」
マッドレイ「その様な行動を、刹那様が聞いて許すとは思えません」
グラン「……臆したかね。マッドレイ」
マッドレイ「いえ。……私めも是非ご一緒させて頂きます」
グラン様「オー・ディ・リライブクロス(全てはリライブ・クロスのために)」
マッドレイ「宝珠を祭壇に嵌め込みます」
2メートル程の黒い炎で燃える悪魔の様に笑った顔の黒きヴィジョンが祭壇から現れる
グラン「あ……あ……この方は……」
マッドレイ「知っているのですか!?」
グラン「幼い時…最重要文献……暗黒文献で見た……『時の管理者』……」
マッドレイが真っ青な顔でグランに聞く
マッドレイ「時の管理者とは何ですか!」
グラン「この方は……タイムスリップという概念をある時代に作り出した神……文献によれば……ある時リーイヴュロススという団体が闇に覆われ……『時』を司り始めると記してある……」
マッドレイ「……うわあああああああああああ!!!!!」
インフォスフィア「オマエタチニハコレカラバールトシテイキテイタダク」
インフォスフィアがリライブクロスの全員を一瞬で飲み込んでしまった

4番街―病院―
麗那「………楽兎」
楽兎「麗那!麗那!ずっと看病してたぜ!」
麗那「私も………頭の中でずっと楽兎の事を考えてた」
楽兎「俺もだよ!あれから何年経ったと思ってるんだよ?なぁ……!」
麗那「あなたは……楽兎の恋人の方?」
リリ「えっ?」
麗那「匂いで分かります……」
リリ「そ、そういうものなのかな……全くわからないけど……とにかく、私は楽兎の彼女じゃないですよ」
麗那「貴女も私の看病をしてくれてたから……。次第に楽兎と似た匂いになっていった……」
楽兎「おいおい冗談はまだ早いぜ麗那。ただ男らしい臭いがするってだけだろ?」
リリ「私男らしくないしー」
麗那「本当に、楽兎と恋人じゃないの?」
リリ「はい」
麗那「じゃあ、私、彼女?」
楽兎「そうだろ?」
麗那「私の事をずっと彼女だと思ってくれてる……嬉しい……」
楽兎「俺には麗那以外考えられねえのさ」
麗那「……今日は、泊まっていくの?」
楽兎「今日は?はっ、ずっと一緒だっただろ?これからもずっと一緒にいんだよ、俺達」







4番街 00:00 ―病棟内―
全ての電灯に強い電気が流れ、そして光が消えた
看護師「電気が全て消えた、一体どうなっている?」
医者「これでは次から来る患者の治療が……」
看護婦「非常用電灯も消灯し暗闇で何も見えません」
医者「とりあえず看護師一人が四つの病室に付くんだ。そうして患者を誘導しろ」

楽兎は窓から外を眺めていた
楽兎「遠い空で光が飛んでる様な気がしたが、気のせいか」
リリ「夢がある話だけど、ブラッツの中じゃ架空の存在なんてありえないよ」
楽兎「目に見えたから架空の存在じゃないけどな」
リリ「私ね、昔は幽霊を信じていたんだ。暗い所には幽霊が出ると思ってた」
楽兎「お前らしくないな」
リリ「うるさい!で、光無しでは外に出るのが怖かったんだよ。そしたら、柏木さんに、幽霊なんか居ないぞ、って言われたんだ」
楽兎「それは良かったな」
リリ「……それで、どうしてって聞いたら、」
楽兎「ああ」
リリ「幽霊になってもブラッツの中に留まってる奴なんている訳ないだろ、ガハハ!って言われたんだ」
楽兎「そりゃそうだな」
リリ「だから、安心して外に出ろって。それで、幽霊なんて居ないような気がしたんだ」
楽兎「……」
リリ「……でもね、たまに死んだ蘭花さんの声が聞こえたり姿を見たりすることがあるんだ」
楽兎「……俺もあるな」
リリ「たまに名前を呼ばれたりするけど、振り返っても亡くなった蘭花さんはいない」
リリ「たまに姿を見たりするけど、探しても蘭花さんはいない」
楽兎「蘭花さんをやりやがって……タナトス……!」
リリ「……それで、こうやって見えたり聞こえたりする姿は、蘭花さんの魂だと思うんだ」
楽兎「蘭花さんはブラッツの中には居ねえ」
リリ「……」
楽兎「信じていいぜ。蘭花さんこそは、男の中の男だ。俺達の事に未練なんてねえよ」
リリ「……あっそ」
楽兎「嘘じゃねえぞ」
リリ「「ところで、光を見つめる楽兎の事を見ていて、蘭花さんに心配されないように強くならなきゃ、と思ったよ」
楽兎「そうか。お前は弱いからな」
リリ「戦力的にお互い様~~」
楽兎「なんだぁ!?俺はお前よりも早く最強になんだよ!」
パリンパリン
ガラスのドアに大きな電流が通り粉々に割れる
貞弘「何事!」
リリ「ドアが割れた!!」
不知火「これは……窓から見える街の明かり以外は一切に暗闇の様ですが」
麗那「空気が緊迫してるわ……」
廊下で強くしびれる看護師の大きな悲鳴がする
楽兎「麗那、心配しなくていいぜ。俺達が通ってきた問題は数知れずだからな」
麗那「今までより緊迫してるけど、私も、大丈夫だと信じられる」
リリ「ヴァルキリー・ステイン!!」
リリの両腕から強い光が溢れる
貞弘「お前はそういう工夫もできたのか、褒めてやろう」
リリ「いいよ、褒めなくて」
不知火「視覚に困らなくなったな……皆、僕についてきてくれ」
貞弘「さて、逃げるのも手だ。現象が不明だからな」
麗那「上にいるって感覚で分かります」
楽兎「麗那、それって武力の『鈴』なのか……?」
麗那「『鈴』……?それは分からないけど……」
貞弘「……はっ!俺より『鈴』を使いこなしてやがる!!将来有望だな!」
楽兎「嫉妬か?」
麗那「感覚が途絶えた生活が続いたせいかなと」
不知火「何階にいるか分かりますか?」
麗那「最上階です」
不知火「凄いですね、参りましょう」
リリ「麗那ちゃんに先を越される日は早いかなぁ~~」
楽兎「力関連ではお前には敵わねぇから」
リリ「いやいや、本当に力は弱いからあたし」
貞弘「この電流は、割れた電灯や非常用電灯、しかもエレベーターの液晶画面からも流れてるのか。かなり強い電圧だな」
楽兎「建物を全て使ってるって事か」
貞弘「……」
不知火「相当な強敵ですね……。階段に着きました。走りながら戦略を練りましょう」
階段を駆け上る楽兎達
不知火「『縄張り』で楽兎と僕の刀に毒を張ってくれませんか、貞弘」
貞弘「分かった」
不知火「あと死斑刀の『縄張り』は今回使わない様に、毒が患者に回ると弱ります」
楽兎「陣形はどうする?」
不知火「空間が狭いのでペインプリズンで攻めましょう」
貞弘「リリは、そのままヴァルキリーステインで後衛から明かりを灯しててくれ」
リリ「分かったよ」
貞弘「それで、俺達が危なくなったらヴァルキリーステインを出し切って麗那と一緒に逃げろ」
リリ「いいよ。但し貞弘やみんなも連れて帰るね」
麗那「みんなに続けて頂いた命です。みんなのために命を使わせてください」
貞弘「……馬鹿野郎」
楽兎「ま、麗那だけは頼む、リリ。麗那を転送した後にもう一度こっちに戻ってもいい訳だしな」
リリ「任せなっさーい」
不知火「最上階に着きます。……皆んな隠れて」
貞弘「麗那ちゃん、相手はこの階のどこに居る?」
麗那「諦観の嘆きがとどろく部屋の前に居ます……怖い……」
不知火「諦観の嘆き……?」
麗那「マップ上で言うと1階で私達が入院していた部屋と同じ位置にあります」
楽兎「1階と8階は同じ構造で、俺達の居た部屋が8階では諦観の嘆きがとどろく部屋になってる訳か」
貞弘「移動するぞ」
リリ「麗那ちゃん、疲れてない?」
麗那「……平気、です」
貞弘「なんかこの階はおかしいな」
不知火「重体、重症で入院が長引くほど上の階に移送されるシステムですからね、人の気配がしないという事かと」
楽兎「人の気配がしない、か」
貞弘「ところでお前ら気が付いてるか?さっきから奴の電流が紙一重で俺達に当たらねぇ。これは俺達を倒す気がねぇって事だ」
不知火「気付いてましたが、それなら好都合でしょう」
貞弘「奴の電流が倒す気で向かってきたら防ぐ術は無い……それ位の実力差がある相手だ」
リリ「それだからヴァルキリーステインも使わなかったし、逃げられなかったんでしょ?」
楽兎「どうした、まさか怖気づいたか?」
貞弘「確認をするためだ」
麗那「私達……死ぬの?」
リリ「麗那は私が助けるよ~~」
貞弘「……着くぞ。俺から攻める」
堅く閉ざされた扉の前に白髪でピンクのマントを羽織った上品な服装の女の子が立っている
貞弘はジグザグに廊下や壁や天井を伝い、彼女との距離を狭める
貞弘「死斑刀……『毒化物』!!」
貞弘は刀から毒物質で構成された化物を召喚しようとするが、電圧で刀が落とされる
貞弘「ぐおおおお……!!!!!」
倒れる貞弘に続き楽兎達の服や刀を囲む様に電気が流れる
リリ「サダ!!」
エクスアイ「倒してません。貴方達に質問があります」
リリ「何……?答えたらサダを離して」
エクスアイ「タナトスのコアはどうしたんですか?」
リリ「私達はそこまで深入りしてない」
エクスアイ「そう。貴方達がデッドストラクチャーを崩壊させたという話を聞いたんだけれど、タナトスも消失したしね」
リリ「この電流を解いて!!」
エクスアイ「もう一度言うけど、タナトスのコアには価値があるの。というのも正体不明の立場から99999999999999999999カロの値段で取引なされています」
不知火「………なんだその額は………!世界政府の資金以上じゃないか……」
リリ「知らない!だから解いて!!」
エクスアイ「タナトスが消失したという事はタナトスのコアが破壊されたという事ですから、デッドストラクチャーを崩壊させた貴方達が知ってると考えた方が必然でしょう」
リリ「……」
エクスアイ「貴方達の他に仲間がいるのかしら?」
リリ「知らない……」
エクスアイ「……どうやらいらっしゃる様で」
リリ「知らない!!」
エクスアイ「ご安心を。デッドストラクチャーに文字通り風穴を開けられる程の能力者には敬意を示しますので」
不知火「後ろの部屋は何だ?凄まじい『怨』と『見』を感じるが」
エクスアイ「なんて事はないです。当病院で運用し尽くされた患者が最後に行き着く部屋。当然最も重症、重体な患者が運用されます」
不知火「……貴様の武器ではないのか?」
エクスアイ「この部屋に入れられた患者は一ヶ月後に床の部屋に落とされ焼却されます。それにしても、この様な煉獄に立たされた患者の武力が高いとは、なかなか興味深いですが」
楽兎「……お前、何者だ?」
エクスアイ「さあ……」
エクスアイがクスクスと冷笑する
リリ「タナトスのコアなんて知らない。私達、タナトスに気絶させられたから、それ以来は知らない。だからサダを離して」
不知火「リリさん……」
楽兎「タナトスを倒したのは俺の姉だ」
リリ「楽兎!」
楽兎「大丈夫、こんな奴には負けねえよ。こいつは電気回路が無きゃ何もできないからな」
エクスアイ「……」
楽兎「もう一度言う。てめぇ何者だ」
エクスアイ「……気が強くて気に入りました。ルナティック・アイズの一員とだけ言っておきましょう」
不知火「ルナティック・アイズ?聞いた事がないぞ……それに何だか嫌な感覚がする……」
楽兎「お前のその絵本に出てくるような月みたいなピンクの瞳と関係があるのか?」
エクスアイ「それだけは団員のお揃いですね……貴方達とはまた会う機会があるように思います。それでは」
電界の揺らぎと共に消えるエクスアイと、楽兎達の周りから消失する電流

3番街 ―ブラッツドーム―
闇の空にたゆたう壬空達
壬空「さて、あの辺りの休息場でも使おうかな」
キース「13番街にしないか?13番街には俺達が使っていた特別最上級の城があるんだけど」
壬空「いいけど、そこって寒くない?13番街という時点で休息のための環境じゃないはずだけど」
キース「城の中は整備が整ってるし、城までは俺の白炎で冷気を遮ってやるさ」
壬空「じゃ、お願いしようかな」
壬空達はブラッツドーム最北の地――13番街のゼノデヴァイド城に移行する
師団長「よくぞお帰りになされました、キース様」
キース「ちょっとお手並み拝見させてくれないか」
師団長「な、何を……」
キースの非常に荒れる黒炎で師団長が塵になる
塵は緩やかに空を舞い、兵士達の声で城内はどよめいた
刹那「……ここは……ゼノデヴァイド城……」
壬空「キース君……?」
天を仰ぎケタケタ笑っているキースの淀んだ目と壬空の目が合い、壬空は戦闘態勢に入る
キース「お前の惚けた顔には内心ウケたよ、壬空」
刹那「……どうやら精神構造が既に別人の様ですね」
壬空「……この喋り方は……」
キース「鈍いな。俺は死四駒の一人、タナトスだ。コアがキースに破壊されても生が持続した事は計算外だった」
壬空の神経が昂ぶるが、即座に噛みしめて抑える
刹那「空洞のバール戦前で何がかおかしいと思っていました。あなたの様な攻撃性を知覚したので」
キース「コアが塵になったところで、それぞれの塵にコアの単位である組成が残れば俺の生は持続されると知った」
壬空「朱雀剣……『リヴァース・ウロボロス』」
キースの身体が自らの黒炎で燃えてゆく
キース「キースの掌にコアの組成が残っていたので俺の意識は奴の掌を木の根として体の内側から蝕んできた」
刹那「天啓剣……『明』」
キースが一抹の黒炎を残して何処かへ瞬間移動する
キース「お前達、白炎は好きか?俺は必要がないと思う。何故なら黒炎だけで全てを燃やせるからに他ならない」
壬空「余裕ぶっちゃっていいのかなぁ?この技は超強いのよ?」
キース「何故キースが白炎を使ったのかというと、それは他者を助けるためだった。変幻自在さ故に小回りが効く様だな」
黒炎が朱雀剣の龍を飲み込む様に膨張し、次第に手、足、羽と象ってゆく。そして、幾多の瞬間移動でヴィジョンを見せるかの様に動く
タナトス「全テヲ焼キ尽クストイウ言葉ハ偽リデハナイ」
刹那「……そんな……これではまるで…………神…………!」







タナトス「神?生憎、貴様等ガ神ト崇メテキタモノハ得テシテ悪魔ダッタナ」
刹那が左手で天啓剣を天に突く
天から濃い紫の線が振りタナトスを覆い潰す
目の前が濃い紫で覆い尽くされるが、ゆらりとタナトスの陰が線の柱から現れる
タナトス「ドウシタ?コンナ悪魔ノ威ヲ借リタ様ナ物質で俺ニ勝テルト思ッタカ?」
壬空は地を蹴りタナトスに向かい飛ぶ
刹那「壬空!!!」
タナトス「オ前ノリヴァースウロボロストカイウ技ッテ、モウ消滅シタノカ。コレデハコメディーダナ」
壬空「キース君!!聴こえてる?!」
タナトス「何ヲ……」
涙が空に浮いているが、状況とは反対に張りのある声が城内に響き渡る
壬空「俯瞰だけじゃなくって、注視も必要なのよ!!」
タナトスが壬空を掴み手の平から黒炎を大きく放出する
壬空は涙もろども丸焦げになるとたちまち塵になる
タナトス「コレデハ余リニモ人間ハ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ弱イ!!!!!!!!!ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

13番街 同刻
ルンド「……凄ぇでかい武力が遠くにあるな」
ビナーレ「どうせバールっスよ。人間の規格じゃありませんせん」
ルンド「(否……、バールにしてもあまりにもでかい……)」
ビナーレ「それより、この宝珠はどこに嵌め込むのでしょう?」
ルンド「地下2000階にある殿堂の中心さ。世界政府の黒色指定区画、月の塔の真下だな」
ビナーレ「超くわしーっスね」
ルンド「まぁ物知りなんでな……着くぞ」
エレベーターが開く
ビナーレ「!この超巨大コンピューター群とこれらに極太ケーブルで繋がれた人達は??」
ルンド「サナトが収集している歴史上の大天才達だな。機械の部分にして世界の中枢として働かせてるって事だ」
ビナーレ「大天才達!私も入れてくださいよ。極太ケーブルや桃源郷の宝珠というぶっといでっかいので」
ルンド「この光景を見て卑猥ギャグを飛ばせるお前は何もせんでもその内どっかに飛ばされるから気にすんな」
ビナーレ「収まりが付かなくなったんスよね。宝珠を嵌め込む辺りから」
ルンド「そうだな。……さて、祭壇に着いたぜ」
ビナーレ「うおっ、眩しっ」
ルンド「最早何色か分からん様な光り方だが目には影響ねぇぜ」
ビナーレ「それにでかいっ。この様な非常に神秘的な装置には宝珠をスリーポイントシュートするしかありません」
シュパッ
ビナーレ「やれやれ。痛み無くずっぽり嵌まりました。汗ふきふき。って、魔法陣に囲まれる!!助けて!」
ルンド「魔法陣に触れた対象も桃源郷に転移される様だな……宝珠が割れたらゲンコツだった」
ビナーレ「どこにゲンコツするんですかぁ?アホ兄」
ルンド「頭だ」
ビナーレ「頭?」
ルンド「……お前は頭に加えて精神を治療しな」
ビナーレ「頭と精神を治療って、最低じゃないっスか」
ルンド「着いたぞ」
ビナーレ「わぁっ、可愛い世界」
ルンド「なんというか、ケレン味溢れる街だな」
ビナーレ「それを言うならメルヘンっスよ」
ルンド「さすがの俺でも陽の日を浴びたのは初めてだね……」
ビナーレ「ブラッツのない世界がこんなに可愛い景色だったなんてぇ!」
ルンド「なんだか明るくて落ち着かないねぇ。可愛いかどうかは知らんが」
ビナーレ「ブラッツが無いっていう事は、ここは東の大陸かな??」
ルンド「そうなるねぇ……そこに人がいるから話を聞いてみるか」
ビナーレ「いたいけな女の子じゃないっスか。ペドですよこれは」
氷女人「?」
ルンド「……あの、魔法使いって知ってるかな?」
氷女人「私、知ってるよ」
ビナーレ「この子、氷女人じゃ……」
ルンド「どこで魔法を習えるか、知ってる?」
氷女人「私、知ってるよ。ここはアルトル大陸だよね。アルトル大陸の最北の寒地に、ゼノデヴァイドっていう魔法の城があるんだよ!」
ルンド「……そうか。ありがとな」
氷女人「ご褒美に頭撫でて!」
ルンドは「いい子だ」と言って、氷女人の髪の毛をくしゃくしゃに撫でる
ビナーレ「アホ兄~~。またセクハラみたいな事をして」
ルンド「セクハラみたいな事って、何でも該当するじゃねぇか。それより、」
ビナーレ「あの子、氷女人だったよね?」
ルンド「何でここに氷女人がいるのかって事だ。奴は死んだはずだぜ」
ビナーレ「どなたかのウェポンで蘇生&若返ったとか」
ルンド「そんなウェポンが存在したら今時需要ありまくりだな」
ビナーレ「若返れるなら私、死にますわ」
ルンド「そういう意味じゃない。……とりあえず魔鳥を呼びな。13番街に行くぞ」
ビナーレ「空間転移してないならここも13番街ですが、わっかりました」
ルンド「景色は綺羅びやかだが、お前に依る魔鳥の危なっかしい乗り心地は変わらんね……あとここは13番街とは言ってもアルトル大陸の中心、世界政府だ」
ビナーレ「アホ兄、後ろ」
ルンド「何だ?……あれは……ブラッツ……?」
ビナーレ「規模は小さいけどね。大きめの城の10倍程の大きさかと」
ルンド「……不吉な予感がするぜ。近寄らない方が吉だな」
ビナーレ「じゃ、出発進行!」
ルンド「帽子が吹き飛ぶ!」
ビナーレ「何時も通り馬鹿だなぁ、アホ兄」
ルンド「円満の笑顔で言うな」
ビナーレ「いや~~馬鹿に似合う夢ある空な事」
ルンド「(……にしても、あのブラッツ辺りから出ている武力……まるで宝珠を嵌めこむ前に察知した武力と同質……)」

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